ep12 朝摘みガーデン

早朝の南地区は食いしん坊達の天国
朝早い職人達に向けた朝食屋台が立ち並ぶのだ

今日は何を食べようか
あれこれ迷うのは朝一番のお楽しみ
よし決めた。豆乳入りのかぼちゃ粥にしよう
いろいろ木の実をトッピング。付け合せに煮卵も


最近知ったことだけれど
ハーブには一日の中で旬がある
朝摘みのものは有用成分が濃くて香り高い
昼を越えたものと比べると歴然の差だ

早起きし、朝露の世界で食事を取り
日が昇り始める頃にはハーブを摘み始める
夏の朝に特有の涼気が心地よく
この生活にすっかりはまってしまった

影が色濃く短くなる前に一仕事を終え
水を浴びてリフレッシュした頃には、また食事が美味しい
昼下がりにハーブを売り歩き
夕暮れには自由気ままに街を歩く

朝摘みハーブの違いを理解してくれる人は少ないけれど
私のささやかな拘りだ



 

ep11 電子鳩メルル

皆さんは電子の海を
飛ぶように泳ぐ鳩を知っているだろうか？

伝書鳩ならぬ電子鳩
古代セラルカの技術から生まれた亜生物
目にも止まらぬ速さで世界中を飛び渡り
手紙を配る人々の架け橋
と言っても、これは童話『電子鳩メルル』のお話

親友同士の往復書簡
メルルは彼らの手紙を運ぶことに喜びを感じてた
けれど或る日、些細なすれ違いから喧嘩が始まり
手紙には棘のある、心ない言葉が目立つようになったの

心を痛めたメルルは
さよならの４文字をゴメンネに書き換えた
本当はやってはいけないこと
おかげで親友たちは仲直りできたのだけど
禁を犯したメルルは…


とても切ない物語
電子鳩は本当に嬉しい時
ピロロォンと歌うように鳴くんだって

もし皆さんが電子鳩の歌声を聴くことができたなら
彼らを労い、喜びを分かち合って欲しい
ここだけの話、私は何度か電子鳩の歌声を聴いたことがある



 

ep10 ハーブ日和

焦げ茶色の麦わら帽子。向日葵の飾りつき
手触り抜群、ガーゼ素材のタオル
たっぷり入る魔法瓶の水筒
おやつを詰め込むバスケット

以上、私が今欲しいもの
名付けてお出かけ草むしりセット

草むしりといっても、生業とするには正式な許可がいる
しかるべき組合に所属し、段階を経て
品目毎に採集資格を得なくてはならない
合言葉は目差せバジル！


空の下の仕事、街の外はモンスターが闊歩する
ある種の危険が伴うけれど
刺激を与えなければ襲われることは少ない

ハーブを摘む傍ら
遠巻きに彼らの生態を観察するのは楽しいものだ
フェイクラットがくるくると求愛のダンスを踊り
トビがぐるぐる空を舞う

私もつられて、その場をくるり
今日も元気にハーブ日和



 

ep9 あまぐも品評会

童話”空色ペンシル”の一場面
色を塗らない白い雲が消極的なのに対して
黒で塗りこめたあまぐもは
積極的な雲と評されるらしい

律儀な小鬼は天変地異を想わせる暗雲を描き
ロマンティストな小鬼は、悲しみの雨をアンニュイに表現
さぼりがちな小鬼は申し訳程度に輪郭を

私にはあの小鬼のダメさ加減がツボみたい
張りぼてのあまぐもを空想し
クスクスと、空に浮かべた


最近、私は空を見上げることが増えた
これまで幾つかの職業を経験して来たけれど
今度は空の下で働きたいと思うようになった
善は急げ、だ

額に汗し、オリーブの枝を拾い集める午後
些か大げさかもしれないけれど
ささやかなキッカケが人生を左右することもある